社会福祉法人の運営にあたっては、社会福祉法や社会福祉法人標準定款例に定められた随時の事務処理があります。
随時の事務処理は、評議員や役員の選任など、人事に関する手続きが中心といえます。
この記事では、それらの事務処理について説明します。
評議員の選任(任期満了前)
評議員は、定款に定める方法によって選任されるとされています。
社会福祉法
(評議員の選任)
第三十九条 評議員は、社会福祉法人の適正な運営に必要な識見を有する者のうちから、定款の定めるところにより、選任する。
この点、厚生労働省が定める「社会福祉法人標準定款例」では、評議員の選任について、次のとおり定めています。
社会福祉法人標準定款例
(評議員の選任及び解任)
第六条 この法人に評議員選任・解任委員会を置き、評議員の選任及び解任は、評議員選任・解任委員会において行う。
2 評議員選任・解任委員会は、監事○名、事務局員○名、外部委員○名の合計○名で構成する。
3 選任候補者の推薦及び解任の提案は、理事会が行う。評議員選任・解任委員会の運営についての細則は、理事会において定める。
4 選任候補者の推薦及び解任の提案を行う場合には、当該者が評議員として適任及び不適任と判断した理由を委員に説明しなければならない。
5 評議員選任・解任委員会の決議は、委員の過半数が出席し、その過半数をもって行う。ただし、外部委員の○名以上が出席し、かつ、外部委員の○名以上が賛成することを要する。
上記の定款例に定める評議員選任・解任委員会による選任方法は、次のとおりです。
① 理事会において、選任候補者の推薦の議案を決定する。
② 評議員選任・解任委員会を開催し、評議員を選任する。
社会福祉法人における評議員の選任・解任は、中立性が確保された方法によることが望ましいものとされています。
そこで、上記の標準定款例では、評議員会や理事会とは独立した機関として、評議員選任・解任委員会を設置して、そこで評議員を選任することにしています。
評議員選任・解任委員会の運営
評議員選任・解任委員会の運営方法等は、定款や理事会において定める細則が根拠となります。
運営方法を定める場合、次の点に留意する必要があります。
① 評議員が欠けた場合等に迅速に対応できるよう、委員会は常時設置する。
② 委員会は、監事○名、事務局員○名、外部委員○名により構成する。
③ 評議員選任・解任委員会の委員は、法人運営の状況を把握し、業務執行に関し責任を負う理事会において決定し、選任する。
④ 社会福祉法第31条第5項の定めの趣旨から、理事が委員となることは認められない。
(申請)
5 第一項第五号の評議員に関する事項として、理事又は理事会が評議員を選任し、又は解任する旨の定款の定めは、その効力を有しない。
(以下略)
⑤ 委員会は合議体の機関であることから、3名以上とする。
⑥ 選任候補者の推薦及び解任の提案は、理事会が行う。
⑦ 法人運営の状況を把握し、業務執行に関し責任を負う理事会において、委員会の招集を決定し、理事が招集する。
⑧ 理事会が選任候補者の推薦・解任の提案を行う際には、評議員として適任及び不適任と判断した理由を委員に説明する。
⑨ 理事が提案内容の説明・質疑対応のために委員会に出席することは可能であるが、議決には加わらない。
⑩ 評議員選任・解任委員会の決議は、委員の過半数が出席し、その過半数をもって行う。ただし、外部委員の○名以上が出席し、かつ、外部委員の○名以上が賛成することを要する。
評議員の選任に必要な書類
評議員・役員の選任手続きにおいては、就任の意思を確認するため、候補者が就任承諾書を提出します。
また、候補者が欠格事由に該当しないか、評議員・役員との特殊関係者が上限を超えて含まれていないか、暴力団等の反社会的勢力でないかについて、次のような書類によって確認します。
【評議員・役員候補者が提出する書類】
・ 履歴書
・ 誓約書
・ 親族その他特殊の関係がある者に関する申立書
【法人が発行する書類】
・ 委嘱状
【官公署が発行する書類】
・ 身分証明書
・ 印鑑登録証明書
・ 成年後見人及び被保佐人として登記されていないことの証明書
役員(理事・監事)の選任
役員の選任は、評議員会によって行います。
社会福祉法
(役員等の選任)
第四十三条 役員及び会計監査人は、評議員会の決議によつて選任する。
(以下略)
任期満了に伴う役員の選任は、以下の手続きにより、評議員会の決議により行います。
なお、理事と監事とで、手続きが異なります。
役員(理事・監事)の選任の手順
① 理事会で、次の2点の決議事項について、出席理事の過半数の承認を得る。
(理事の過半数の出席が必要。ただし特別の利害関係を有する理事を除く)
・ 理事または監事の選任候補者
・ 評議員会の日時・場所、議題・議案(役員選任)の決定
※監事の選任議案の要件
○ 理事会が監事の選任に関する議案を評議員会に提出するためには、監事の過半数の同意が必要です。このため、理事会に欠席した監事がいる場合、別途選任議案への同意が必要となります。
○ また、法人は、監事の過半数の同意(監事が2名の場合は2名の同意)を得たことを証する書類を作成する必要があります。
※ 同意を得たことを証する書類の例
・ 各監事ごとに作成した同意書
・ 監事の連名による同意書
・ 理事会の議事録(議案に同意した監事の氏名の記載と監事の署名、または記名押印があるものに限る)
② 評議員会で、理事・監事の選任について、特別の利害関係を有する評議員を除く評議員の過半数の承認を得る。
※ なお、理事・監事の解任は、法律により事由が限定されており、監事の解任は特別決議事項に該当します。
社会福祉法
(役員又は会計監査人の解任等)
第四十五条の四 役員が次のいずれかに該当するときは、評議員会の決議によつて、当該役員を解任することができる。
一 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つたとき。
二 心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき。
③ 評議員会での選任日が、任期の起算日(開始日)になります。
代表者(理事長)の変更登記及び届出
新たに法人の代表者(理事長)が選任された場合は、社会福祉法第29条及び組合等登記令第3条の定めに従い、選任後2週間以内に代表者(理事長)の変更登記を行い、遅滞なく各社会福祉事業等を所管する部署に届け出ます。
社会福祉法
(登記)
第二十九条 社会福祉法人は、政令の定めるところにより、その設立、従たる事務所の新設、事務所の移転その他登記事項の変更、解散、合併、清算人の就任又はその変更及び清算の結了の各場合に、登記をしなければならない。
2 前項の規定により登記をしなければならない事項は、登記の後でなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。
組合等登記令
(設立の登記)
第二条 組合等の設立の登記は、その主たる事務所の所在地において、設立の認可、出資の払込みその他設立に必要な手続が終了した日から二週間以内にしなければならない。
2 前項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 目的及び業務
二 名称
三 事務所の所在場所
四 代表権を有する者の氏名、住所及び資格
五 存続期間又は解散の事由を定めたときは、その期間又は事由
六 別表の登記事項の欄に掲げる事項
(変更の登記)
第三条 組合等において前条第二項各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その主たる事務所の所在地において、変更の登記をしなければならない。
(以下略)
なお、代表者(理事長)が再任の場合でも、新たな任期における代表者(理事長)としての登記が必要です。(いわゆる重任登記)
代表者(理事長)の変更登記及び届出の手順
① 理事会での互選による理事長選任後2週間以内に、主たる事務所所在地の法務局に必要書類を提出し、理事長の変更登記を申請する。
② 理事長変更登記終了後、遅滞なく「変更届」を各事業所管課【※】あてに、提出する。
※ 生活福祉、児童・母子・女性、高齢者、障害者(児)の各社会福祉事業の許認可等事務の所管部署になります。
評議員または役員に欠員が生じた場合の補充
評議員または役員の員数が欠ける理由については、社会福祉法または社会福祉法人標準定款例に定めがあり、「任期の満了」や、任期中の「辞任による退任」等があります。
社会福祉法
(評議員の任期)
第四十一条 評議員の任期は、選任後四年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、定款によつて、その任期を選任後六年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで伸長することを妨げない。
2 前項の規定は、定款によつて、任期の満了前に退任した評議員の補欠として選任された評議員の任期を退任した評議員の任期の満了する時までとすることを妨げない。
(役員の任期)
第四十五条 役員の任期は、選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、定款によつて、その任期を短縮することを妨げない。
社会福祉法人標準定款例
(評議員の任期)
第七条 評議員の任期は、選任後四年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとし、再任を妨げない。
2 評議員は、第五条に定める定数に足りなくなるときは、任期の満了又は辞任により退任した後も、新たに選任された者が就任するまで、なお評議員としての権利義務を有する。
(役員<及び会計監査人>の任期)
第一九条 理事又は監事の任期は、選任後二年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとし、再任を妨げない。
2 理事又は監事は、第一五条に定める定数に足りなくなるときは、任期の満了又は辞任により退任した後も、新たに選任された者が就任するまで、なお理事又は監事としての権利義務を有する。
<3 会計監査人の任期は、選任後一年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。ただし、その定時評議員会において別段の決議がされなかったときは、再任されたものとみなす。>
新たな評議員・役員の任期の開始までの間に、評議員・役員が不在となる空白時期が生じないよう、任期満了日(退任日)までに間に、時間的余裕をもって候補者を人選し、選任することになります。
評議員または役員に欠員が生じた場合の補充の手順
① 評議員・役員の退任により、社会福祉法または定款で定める役員等の員数が欠けた場合には、新たに選任された評議員・役員が就任するまで、退任した評議員・役員が役員等としての権利義務を有します。
社会福祉法
(評議員に欠員を生じた場合の措置)
第四十二条 この法律又は定款で定めた評議員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した評議員は、新たに選任された評議員(次項の一時評議員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお評議員としての権利義務を有する。
(役員等に欠員を生じた場合の措置)
第四十五条の六 この法律又は定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
② 辞任による退任に伴う補充の場合は、社会福祉法または定款で定める任期について、新任の評議員・役員の任期の終期と、他の評議員・役員の終期とで、違いが生じることがあります。
新任の評議員・役員等の任期の終期について、他の者の任期と合わせるために、退任した役員等の任期満了時とするためには、そのことをあらかじめ定款で定める必要があります。
定款の記載ぶりは、上記の社会福祉法人標準定款例の記載を参考にしてください。