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一括下請負の禁止とは

建設業

一括下請負とは、工事を請け負った建設業者が、実質的には施工に関与せず、下請業者に、その工事のうち、①全部、②主たる部分、③請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立して機能を発揮する工作物の建設工事、を一括して請け負わせることをいいます。

建設業法では、原則として、一括下請負を禁止しています。

この記事では、一括下請負の禁止について説明します。

一括下請負を禁止する理由

建設業法が、一括下請負を禁止する理由は、次のとおりです。

一括下請負は、発注者の期待を裏切ってしまう

一括下請負は、発注者保護の観点から禁止されています。

建設工事の発注者が、受注者となる建設業者を選ぶときは、施工実績、施工能力、経営管理能力、資力、社会的信用など、さまざまな観点から建設業者を比較することが一般的です。

その上で、「この建設業者なら信頼できる」と判断して、受注者を決めます。

発注者は、受注した建設業者を信頼して、その建設業者に工事を請け負わせています。

この点、一括下請負は、発注者が信頼した建設業者とは異なる建設業者が、受注工事の一切を施工することになります。

発注者は、実質的に契約関係になく、信頼関係のない建設業者によって、多額の金額を要する建設工事を施工されることになります。

このとおり、一括下請負は、発注者の信頼を裏切る行為といえます。

ブローカーが介入するおそれがある

一括下請負を認めると、施工能力のないブローカーが、中間搾取(ピンハネ)を目的として、一括下請負をすることがあります。

施工に関する責任関係が不明確になったり、工事の質や労働条件が悪化したりするなど、発注者にとって不利益になるだけでなく、建設業者や建設業界の健全な発展が妨げられるおそれがあります。

なお、中間搾取が無く、利益や経費を一切差し引かずに、一括して下請負させた場合でも、一括下請負にあたります。

施工責任があいまいになる

一括下請負によって、実質的な施工業者が下請業者になることで、元請と下請の責任関係があいまいになってしまいます。

本来であれば、元請業者は、下請業者に、工事に関する指導監督を行うことになっていますが、一括下請負の場合、十分な指導監督がなされないおそれがあります。

責任関係や、施工管理体制があいまいになることで、手抜工事や事故につながるおそれがあります。

建設業法における一括下請負の禁止

建設業法では、次のとおり、原則として一括下請負を禁止しています。

(一括下請負の禁止)
第二十二条 建設業者は、その請け負つた建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
2 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負つた建設工事を一括して請け負つてはならない。
3 前二項の建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合において、当該建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、これらの規定は、適用しない。
4 発注者は、前項の規定による書面による承諾に代えて、政令で定めるところにより、同項の元請負人の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより、同項の承諾をする旨の通知をすることができる。この場合において、当該発注者は、当該書面による承諾をしたものとみなす。

昭和二十四年法律第百号
建設業法

以上のとおり、建設業法の第22条の第1項と第2項によれば、建設業者は、建設工事について、一括して請け負わせることも、一括して請け負うことも、禁止されています。

下請業者間でも禁止です。親会社と子会社の間でも禁止です。

建設業許可を持っていない建設業者であっても禁止です。

一括下請負は、公共工事においては、全面的に禁止です。

以上のとおり、一括下請負は、原則禁止されていますが、同条第3項に該当する場合には、一括下請負が認められています。

発注者の承諾がある場合

建設業法の第22条の第3項では、民間工事において、発注者が書面で承諾する場合に限って、一括下請負が認められています。(ただし、共同住宅を新築する場合においては、全面禁止です。)

発注者から承諾を得るには、次のルールを守る必要があります。

① 建設工事の最初の注文者である発注者の承諾が必要。

② 発注者の承諾は、一括下請負にする以前に、書面により受ける。

③ 発注者の承諾を受けなければならない者は、一括下請負をしようとする元請業者。

④ 下請業者が請け負った建設工事を、さらに一括して再下請負する場合にも、発注者の書面による承諾が必要。(下請業者は元請業者から承諾を得るのではない)

⑤ 発注者から承諾を得て一括下請負にした場合でも、元請業者や下請負をした下請業者は、請け負った建設工事について建設業法に定める責任を負う。

⑥ 元請業者や下請負をした下請業者は、その建設工事の工事現場に、主任技術者または監理技術者の配置が必要。

「実質的に関与」することについて

ある工事が、一括下請負に該当するには、その工事を請け負った建設業者(下請させた側)が、実質的には、その工事に施工に関与していないことが前提になります。

いわゆる”丸投げ”のような状態です。

きちんと施工に関与していれば、一括下請負に該当しないことがあります。

請け負った建設工事の主たる部分について、一括して下請負させる場合であっても、下請負させた部分の施工について、元請業者が実質的に関与していれば、一括下請負には該当しません。

ここでいう、実質的に関与するとは、元請業者が、自ら、施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、技術的指導を行うことによって、それらに関する事項を、元請業者と下請業者が、ともに実施することをいいます。

国土交通省の報道発表資料によれば、実質的な関与について、次のとおり整理されています。

元請業者が実施する事項

施工計画の作成

請け負った建設工事全体の施工計画書等の作成
下請負人の作成した施工要領書等の確認
設計変更等に応じた施工計画書等の修正

工程管理

請け負った建設工事全体の進捗確認
下請負人間の工程調整

品質管理

請け負った建設工事全体に関する下請負人からの施工報告の確認
必要に応じた立会確認

安全管理

安全確保のための協議組織の設置及び運営
作業場所の巡視等請け負った建設工事全体の労働安全衛生法に基づく措置

技術的指導

請け負った建設工事全体における主任技術者の配置等法令遵守や職務遂行の確認
現場作業に係る実地の総括的技術指導

その他

発注者等との協議・調整
下請負人からの協議事項への判断・対応
請け負った建設工事全体のコスト管理
近隣住民への説明

下請業者が実施する事項

施工計画の作成

請け負った範囲の建設工事に関する施工要領書等の作成
下請負人が作成した施工要領書等の確認
元請負人等からの指示に応じた施工要領書等の修正

工程管理

請け負った範囲の建設工事に関する進捗確認

品質管理

請け負った範囲の建設工事に関する立会確認(原則)
元請負人への施工報告

安全管理

協議組織への参加
現場巡回への協力等請け負った範囲の建設工事に関する労働安全衛生法に基づく措置

技術的指導

請け負った範囲の建設工事に関する作業員の配置等法令遵守
現場作業に係る実地の技術指導

その他

自らが受注した建設工事の請負契約の注文者との協議
下請負人からの協議事項への判断・対応
元請負人等の判断を踏まえた現場調整
請け負った範囲の建設工事に関するコスト管理
施工確保のための下請負人調整

実質的に関与していることの確認は、次のような方法で確認します。
①監理技術者や主任技術者に対して、施工管理等に関するヒアリングを実施
②日々の作業打合せ簿、工事日報、安全指示書等を確認

技術者の配置について

建設業法第26条第1項及び第2項に基づき、建設業者は、工事現場における建設工事の管理をする技術者(主任技術者または監理技術者)の配置が必要です。

(主任技術者及び監理技術者の設置等)
第二十六条 建設業者は、その請け負つた建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第七条第二号イ、ロ又はハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。
2 発注者から直接建設工事を請け負つた特定建設業者は、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が第三条第一項第二号の政令で定める金額以上になる場合においては、前項の規定にかかわらず、当該建設工事に関し第十五条第二号イ、ロ又はハに該当する者(当該建設工事に係る建設業が指定建設業である場合にあつては、同号イに該当する者又は同号ハの規定により国土交通大臣が同号イに掲げる者と同等以上の能力を有するものと認定した者)で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「監理技術者」という。)を置かなければならない。
(略)

昭和二十四年法律第百号
建設業法

なお、主任技術者または監理技術者を、単に現場に置いているだけでは「実質的に関与」しているとみなされません。

これらの技術者と、建設業者との間に、直接的かつ恒常的な雇用関係があって、工事現場に配置され、上述した「実質的に関与」していると認められる各種事項(施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、技術的指導など)を実施することで「実質的に関与」していると認められることになります。

一括下請負に該当するかどうかの判断

ある建設工事が、一括下請負に該当するかどうかの判断は、請け負った建設工事一件ごとに判断されます。

建設工事一件の範囲は、原則として請負契約単位で判断されます。

工事一件の範囲が、契約単位で判断されるため、複数の契約にわかれている工事を一体として施工する場合には、個別の契約ごとに一括下請負になるかどうかの判断が必要になります。

例えば、それぞれ別契約になるA工事とB工事が、施工場所が同一で、工期が重なっていたとしても、それらを1件の建設工事として扱うことはできません。

したがって、これらの工事のうち、例えばA工事について、全部を下請負させるとすれば、A工事については一括下請負に該当します。

一括下請負にあたる工事は、工事を請け負った建設業者が、その工事のうち、次の3種類を、下請業者に、一括して請け負わせるものです。
①全部
②主たる部分
③請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立して機能を発揮する工作物の建設工事

このうち、①は全部を下請させることですので、下請させる工事の内容が明確で、一括下請負に該当するかどうかの判断がわかりやすいです。

他方、②と③は、下請させる工事の内容が様々であるため、一括下請負に該当するのかどうか、判断が必要になります。

一括下請負にあたる具体例として、国土交通省が報道発表資料で示しているものは次のとおりです。

工事の主たる部分の一括下請負にあたるもの

工事の主たる部分の一括下請負にあたるかどうかは、下請負させた工事の質・量を勘案して、ケースバイケースで判断されます。

国土交通省は報道発表資料において、典型例として、次のものを挙げています。

①本体工事のすべてを、ひとつの業者に下請負させ、
附帯工事のみを元請負人が自ら、または他の下請負人が施工する場合

②本体工事の大部分を、ひとつの業者に下請負させ、
本体工事のうち主要でない一部分を元請負人が自ら、または他の下請負人が施工する場合

国土交通省は、具体的事例として、次の2つの事例を示しています。

① 建築物の電気配線の改修工事において、電気工事のすべてを1社に下請負させ、電気配線の改修工事に伴って生じた内装仕上工事のみを元請負人が自ら施工し、又は他の業者に下請負させる場合
② 戸建住宅の新築工事において、建具工事以外のすべての建設工事を1社に下請負させ、建具工事のみを元請負人が自ら施工し、又は他の業者に下請負させる場合

平成28年10月14日付 国土交通省土地・建設産業局建設業課 報道発表資料「建設工事における 一括下請負の判断基準を明確化しました」

これらの事例では、建設工事の主要な部分は、すべて1社に下請負させており、元請負人や他の業者は、主要ではない部分の工事を施工しているといえます。

請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事の一括下請負にあたるもの

請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、一括下請負をしたことになる場合は、次の事例の①及び②のような場合をいいます。

国土交通省は、具体的事例として、次の2つの事例を示しています。

① 戸建住宅10戸の新築工事を請け負い、そのうちの1戸の建設工事を一社に下請負させる場合
② 道路改修工事2キロメートルを請け負い、そのうちの500メートル分について施工技術上分割しなければならない特段の理由がないにもかかわらず、その建設工事を1社に下請負させる場合

平成28年10月14日付 国土交通省土地・建設産業局建設業課 報道発表資料「建設工事における 一括下請負の判断基準を明確化しました」

これらの事例では、建設工事のうち、一部分を分割し、その部分のすべてを1社に下請負させています。

一括下請負の罰則

一括下請負をした建設業者は、行政から、営業停止などの厳正な監督処分を受けることがあります。

また、一括下請負とみなされた建設工事については、その工事を実質的に行っていると認められないため、経営事項審査における完成工事高から、その工事金額を除外されます。

まとめ

この記事のまとめ

一括下請負とは、工事を請け負った建設業者が、実質的には施工に関与せず、下請業者に、その工事のうち、①全部、②主たる部分、③請け負った建設工事の一部分であって他の部分から独立して機能を発揮する工作物の建設工事、を一括して請け負わせることをいいます。

建設業法では、原則として、一括下請負を禁止しています。

一括下請負は、一括して請け負わせることも、一括して請け負うことも、禁止です。

下請業者間や、親会社と子会社の間でも禁止です。
建設業許可を持っていない建設業者であっても禁止です。

一括下請負は、公共工事においては、全面的に禁止です。
民間工事においては、発注者が書面で承諾する場合に限って、一括下請負が認められます。
ただし、共同住宅を新築する場合においては、全面禁止です。

工事に実質的に関与していることが認められないと、一括下請負とみなされるおそれがあります。

実質的に関与するとは、元請業者が、自ら、施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、技術的指導を行うことによって、それらに関する事項を、元請業者と下請業者が、ともに実施することをいいます。

工事現場に、適切な雇用関係にある主任技術者または監理技術者を置かなければ、実質的な関与を認められません。

この記事を書いた人
行政書士上田

法務省、内閣官房、復興庁での勤務を経て、行政書士・社会福祉士として開業。 14年間、公務員として福祉分野などに関わってきた経験を生かして、許認可申請と生活相談を専門とした行政書士・社会福祉士として、お客様の事業や生活を支援しています。

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