遺言は、法律で定められた方式を守っていれば、その内容は基本的に自由です。
ただし、遺言書に書かれる内容には、相続人や相続財産に大きな影響を与える事項があります。
この記事では、相続人の身分関係に影響を与える事項について説明します。
遺言で身分関係に影響を与える事項について
遺言者が、遺言によって、遺族の身分関係に影響を与える事項は、次のとおりです。
①認知
②未成年後見人の指定
③未成年後見監督人の指定
認知
遺言者は、遺言で、子の認知ができます。
非嫡出子(結婚していない男女間の子)は、認知されない場合、父親の財産を相続できません。
遺言で認知されることで、子としての相続権を得ることができます。
民法
(認知の方式)
第七百八十一条 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
2 認知は、遺言によっても、することができる。
未成年後見人の指定
親権者が死亡して、未成年の子が残された場合、その子は、親権者の見守りなく、生きていくことになり、心配です。
また、遺産を相続した場合、未成年者が遺産を管理することになり、ちゃんと財産を管理できるのか、不安が残ります。
そこで、法律上は、後見人が、未成年者の身上監護や財産管理をすることになっています。
この未成年者の後見人のことを、未成年後見人といいます。
法律上、未成年者がいて、その未成年者の親権者がいない場合、自動的に後見が開始します。
民法
第八百三十八条 後見は、次に掲げる場合に開始する。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二 後見開始の審判があったとき。
このとき、遺言者は、未成年後見人を遺言で指定しておくことができます。
民法
(未成年後見人の指定)
第八百三十九条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
2 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。
遺言による指定が無い場合は、家庭裁判所において、後見開始の審判がなされ、未成年後見人が指定されます。
なお、未成年後見人は、複数人を指定できます。
また、法人を選任することも可能です。
未成年後見監督人の指定
未成年後見監督人とは、未成年後見人が、身上監護や財産管理を適正に行うよう監督する者です。
遺言者は、未成年後見監督人を、遺言で指定しておくことができます。
民法
(未成年後見監督人の指定)
第八百四十八条 未成年後見人を指定することができる者は、遺言で、未成年後見監督人を指定することができる。
遺言による指定が無い場合、家庭裁判所が、職権で監督人を指定します。
遺言に記載する際の留意事項
以上のとおり、遺言者は、遺言によって、相続人の身分関係に影響を与えることができます。
認知の場合、認知された子の人生に影響を与えるほか、その子が相続人になることで、その他の相続人と、相続財産を分け合うこともあり、その他の相続人にも影響を与えます。
また、残された未成年の子に、未成年後見人を指定した場合、その子の人生に与える影響や、その子の身上監護や財産管理に影響を与えることになります。
こうした影響の大きさを踏まえると、これらの事項を記載する遺言は、間違いがあってはならないものといえます。
記載事項について、事前に、専門家の精査を経ておくことが望ましいといえます。
この点、自筆証書遺言や秘密証書遺言で未成年後見人を指定した場合、家庭裁判所での検認手続きで、遺言書の方式不備が指摘され、遺言書が無効になるおそれがあります。
また、検認手続きを経る手間がかかり、その間、遺言の内容が実現しません。
認知の場合、認知される子の身分関係が不安定になることがあります。
未成年後見人の指定の場合、未成年者の身上監護や財産管理が始まらない危険があります。
以上を踏まえると、身分事項について定める遺言は、公正証書遺言によることが望ましいといえます。
公正証書遺言は、公証人による遺言の事前チェックがあるので、方式面や内容面の不備を心配することはありません。
かつ、検認手続きが不要のため、速やかに遺言の内容を実現できます。