法定後見制度とは、病気や障害によって判断能力の不十分な方が、意思決定や行動を必要とする場合に、親族や専門家などが後見として支援することで、その方の自己決定を尊重し、権利を擁護するための制度です。
法定後見制度は、家庭裁判所に、開始の審判を申し立てることで利用できる制度です。
「後見」、「保佐」、「補助」の3つの種類に分かれています。
この記事では、「後見」について説明します。
後見とは
後見は、認知症・知的障害・精神障害などにより、判断能力が欠けているのが通常の状態にある方を、保護・支援するための制度です。
後見では、家庭裁判所が選任した「成年後見人」が、判断能力が欠けているのが通常の状態にある方(以下「被後見人」といいます)の利益を考えながら、被後見人を支援します。
成年後見人による身上監護と財産管理
成年後見人の職務は、大きく2つに分けると、身上監護と財産管理があります。
身上監護とは、被後見人のために、生活上の契約手続きをすることをいいます。
具体例としては、次のようなものがあります。
・健康診断等の受診、治療入院契約
・住居の確保、修繕等の契約
・福祉施設等入退所契約
・介護・生活維持に関連する契約
・社会保障給付の利用
・教育・リハビリに関する契約
財産管理とは、被後見人のために、被後見人の財産を適切な目的に使用し、かつ浪費を予防するなどして管理していくことをいいます。
具体例としては、次のようなものがあります。
・上記の身上監護に関する費用の支払い
・預貯金の通帳、その他の財産の保管
・預貯金、有価証券等の管理
・預貯金口座の開設、預金払戻し、解約
・公共料金、介護保険料、健康保険料、生活や療養に必要な支払い
・税金の申告・納税
・不動産の管理、処分、賃貸借契約
・敷地、貸家の管理(賃料収入の管理)
・遺産分割、遺産・贈与の受領
このほか、成年後見人には「代理権」と「取消権」が与えられています。
成年後見人の代理権と取消権
成年後見人には、被後見人の行為について「代理権」と「取消権」が与えられています。
被後見人を代理することができ、かつ、被後見人のしたことを取り消すこともできます。
成年後見人は、被後見人の行為について、広範な権限が与えられています。
その権限の使い方を間違えれば、かえって被後見人の権利を侵害してしまうおそれがあります。
この点、被後見人は、判断能力が欠けているのが通常の状態ではありますが、まったく意思疎通ができないということではありません。
成年後見人は、被後見人とコミュニケーションをとって、その意思をくみ取り、心身の状態や生活の状況にも配慮しつつ、被後見人の意思に沿った支援をしていく義務が定められています。
民法
(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
成年後見人の代理権
被後見人は、判断能力に制約があるので、法律行為や財産管理ができません。
例えば、一般的に、賃貸住宅を借りるという場合、賃貸借契約(法律行為)と、賃料の支払い(財産管理)が必要になります。
判断能力に制約があると、契約の意味が分からず、お金を払うこともできません。
つまり、自力では、賃貸住宅を借りることができません。
同様に、福祉施設に入所したい場合や、介護サービスを利用したい場合なども、すべて契約と支払いが必要ですから、被後見人が自力で利用することはできません。
そこで、後見では、成年後見人が、被後見人に代わって、契約や支払いを代理します。
このため、成年後見人には、代理権が与えられています。
成年後見人の取消権
被後見人は、判断能力に制約があるので、間違った法律行為をしてしまうおそれがあります。
例えば、悪徳商法に騙されて、高額商品を高額で購入するような場合です。
そこで、後見では、成年後見人が、被後見人がした不利益な法律行為を、後から取り消すことができます。なお、取消は、被後見人本人にもできます。
取り消された法律行為は、初めから無かったものになります。
先述の悪徳商法の例では、高額商品の購入契約が無かったことになるので、被後見人が高額商品を返品し、悪徳業者が購入金額を返金します。
成年後見人の報酬
家庭裁判所は、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができるものとされています。成年後見監督人についても同様です。
成年後見人等に対する報酬の基準は、法律で決まっているわけではありません。
裁判官が、対象期間中の後見の事務内容(身上監護・財産管理)、成年後見人等が管理する被後見人等の財産の内容等を総合的に考慮して、事案ごとに適正妥当な金額を算定しています。
親族が成年後見人をしている場合、事案に応じて報酬が減額されることがあります。
専門職が成年後見人等に選任された場合については、これまでの審判例等、実務の算定実例を踏まえた標準的な報酬額の目安は次のとおりです。
基本報酬
成年後見人
成年後見人が、通常の後見事務を行った場合の報酬(これを「基本報酬」といいます)の目安となる額は、月額2万円です。
ただし、管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)が高額な場合には、財産管理事務が複雑困難になる場合が多いので、次の金額が目安となります。
管理財産額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合には、基本報酬額を月額3万円~4万円
管理財産額が5,000万円を超える場合には、基本報酬額を月額5万円~6万円
成年後見監督人
成年後見監督人が、通常の後見監督事務を行った場合の報酬(基本報酬)の目安は次のとおりです。
管理財産額が5,000万円以下の場合には、月額1万円~2万円
管理財産額が5,000万円を超える場合には、月額2万5,000円~3万円
付加報酬
成年後見人等の後見等事務において、身上監護等に特別困難な事情があった場合には、上記基本報酬額の50パーセントの範囲内で、相当額の報酬を付加します。
成年後見人等が、例えば、報酬付与申立事情説明書に記載されているような特別の行為をした場合には、相当額の報酬を付加することがあります(これらを「付加報酬」といいます)。
被後見人の死亡後の成年後見人の権限
次に該当する場合、後見は終了します。
①被後見人が死亡したとき
②被後見人の能力が回復し、後見開始の審判が取り消されたとき
(保佐、補助、任意後見が開始した場合も含みます)
被後見人が死亡した場合、後見人は、被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除いて、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次の行為をすることができます。
①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済
③死体の火葬・埋葬に関する契約の締結、その他相続財産の保存に必要な行為
※③は、前もって家庭裁判所の許可が必要です。
※③は、火葬・埋葬の契約であり、葬儀の契約は含みません。
上記には、次のような行為が含まれます。
・債務弁済のための本人名義の預貯金の払戻し(振込により払い戻す場合を含みます)
・本人が入所施設などに残した物品などに関する寄託契約の締結
・電気、ガス、水道の供給契約の解約など